目標に向かって努力することは非常に重要です。しかし、目標達成に過度に執着してしまうと、かえって長期的な成功を遠ざけてしまう可能性があります。短期的な結果に固執するあまり、長期的な視点や大切な価値観を見失ってしまうことがあるからです。本稿では、目標達成への執着がもたらす潜在的なリスクを検証し、長期的な成功を築くための考え方を探ります。
目標達成への執着とは?
目標達成への執着とは、特定の目標を達成することに過度に集中しすぎてしまい、全体的な使命や自身の健康を犠牲にしてしまう状態を指します。この状態になると視野が狭まり、自分の行動がもたらす広範な影響や長期的な結果を見落としてしまうことが多くなります。
確かに、野心や決意は成功に欠かせない重要な資質ですが、成果に対する不健全な執着があると、多くの人は「大局」を見失い、人生における他の大切な側面をないがしろにしてしまいます。
この悪習慣は特定の人に限られたものではありませんが、特に成功を収めた人々の間でよく見られる傾向があります。達成感というものは非常に中毒性があるため、一度目標を達成すると、より高い目標を設定して自分を追い込むようになります。しかし、その結果、自分の健康や人間関係、さらには倫理観を犠牲にしてしまうことも少なくありません。
例:
ある有望な若いアスリートが特定の大会で優勝することを目指して懸命に努力しているとしましょう。しかし、勝利への執着が強すぎて、適切な休息を犠牲にしてしまい、怪我のリスクを高めてしまいます。つまり、1回の大会で成功するための執念が、持続可能な長期的な成長を妨げているのです。
目標達成への執着 例
目標達成への執着|私たちが陥りがちな悪い癖
目標達成への執着とは、目標達成に囚われすぎて、より大きな使命を犠牲にしてしまうことです。
マーシャル・ゴールドスミス
ベストセラー『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(原題:What Got You Here Won’t Get You There)の中で、マーシャル・ゴールドスミス博士は、さらなる成功を妨げる20の悪習慣を挙げています。これらの中には、「勝ちすぎること」「他人を判断すること」「適切な評価を与えないこと」などが含まれています。
その中でも最後の「目標達成への執着」は特に重要視されており、ゴールドスミス博士はこのテーマに1章を割いて詳しく分析しています。この習慣は、特定の成果(例えば、大規模な契約の成立、名声ある社会的地位の獲得、野心的なビジネス目標の達成)に囚われるあまり、他のすべてを無視してしまう時に現れます。
目標を設定し計画を立てることは、成功に向けて努力するためのモチベーションを与えてくれます。しかし、人生の他の側面を犠牲にするほど特定の目標に固執するのは、決して良いことではありません。
これは、ゴールラインに向かってひたすら走るようなものです。速く走りすぎると視界が「トンネルビジョン」になり、目的地だけしか見えなくなって周りが見えなくなります。
特定の目標に執着しすぎると、より大きな成果を見失う結果となってしまうのです。
目標を達成するという強い意志の恩恵
- 集中力の向上
情熱がポジティブに、適度に活かされると、目標に向かって進むための「コンパス」となります。それはまるでレーザービームのように目標に集中する力を与え、気を散らす要素や無駄なリソースの消費を避ける助けとなります。
- モチベーションの向上
明確な目標は、「内なる炎」を燃え上がらせ、前進する推進力を与えます。例えば、ある起業家がサステナブルファッションブランドを立ち上げたいという情熱を持っているとします。その場合、成功への願望が彼を駆り立て、徹底的な調査を行い、エコフレンドリーな製品をデザインし、倫理的な製造プロセスを採用する原動力となります。
このように、目標から得られる内発的なモチベーションは、彼にインスピレーションを与え続け、ビジョン実現のために積極的に行動する原動力となります。
- レジリエンスの向上
目標達成に集中している人は、逆境に直面してもより粘り強く、決意を持って対処する傾向があります。失敗が起こった場合でも、彼らは何が間違っていたのかを分析し、問題の原因を特定し、その経験から学びます。この自己反省のプロセスが彼らを精神的に強くし、将来の課題を乗り越えるための準備を整えてくれるのです。
目標達成に固執しすぎることの弊害
- 大きな目的を見失う
特定の目標にあまりにも執着しすぎると、大局を見失うことがあります。その結果、個人やチームのビジョンから外れるような意思決定を下し、長期的な持続可能性よりも短期的な利益を優先してしまうリスクがあります。
例えば、ある飲料システムのマーケティングマネージャーがブランド認知度を高めるためにリソースを投入すると決めたとします。しかし、時間や資源を節約するため、SNSや広報活動に投資する代わりに、顧客との製品品質に関する論争を引き起こすという近道を選んでしまいました。
結果的に、ブランドの認知度は確かに上がりましたが、その代償は計り知れません。消費者の間で「品質が劣るブランド」という印象が広がり、市場でのブランドイメージが大きく損なわれる結果となりました。
- 機械のような働き方になる
特定の成果に過度に集中しすぎると、仕事において機械的で硬直的なアプローチをとりがちです。数字や指標に縛られすぎるあまり、柔軟性を失い、他人の感情やニーズに気付けなくなることがあります。
- 不必要なストレスを生む
目標に向かって期限を設定し、それに向けて努力することは素晴らしいことです。しかし、特に管理職の立場にある人は、その過程で意図せずに周囲の人々にストレスを与えるリスクに注意を払わなければなりません。
高い基準に共感してくれる人もいれば、そうでない人もいます。プレッシャーが蓄積すると、チームメンバー間で亀裂が生じ、士気やチームの一体感に悪影響を与える可能性があります。
- 「急ぎ病」に陥る
「急ぎ病」とは、心臓病専門医であるマイヤー・フリードマン博士とレイ・ローゼンマン博士が提唱した概念で、限られた時間内で多くのことを達成しようと絶えず奮闘する状態を指します。この症状には、以下のような特徴があります:
- 何事も急ぎ足で取り組む
- 休日でもリラックスできない
- ペースの遅い人に対してイライラする
- 避けられない遅れに対して苛立つ
といったことが挙げられます。
作家エドワード・ハロウェルは著書『CrazyBusy: Overstretched, Overbooked, and About to Snap!』の中で、「急ぎすぎることは、生産性を高めるどころか逆に妨げる」と述べています。常に急いでいると、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌され、心臓発作や脳卒中のリスクが高まります。また、疲労が蓄積し、仕事におけるミスも増える傾向があります。この状態が続くと、パフォーマンスの質は取り返しのつかないほど低下します。
- 悪い方向に変わっていく
限られた時間内にますます多くの成果を達成しようとするプレッシャーは、個人の性格にも大きな影響を及ぼします。次第に敏感さを失い、イライラしやすくなり、怒りを抑えられなくなり、他人に対して共感を示す能力が低下します。
この絶え間ないプレッシャーは、エネルギー面にも影響を及ぼします。定期的に運動をしていても、常に疲労感を感じ、感情的にも距離を置いたような状態に陥ります。つまり、「悪い方向に変わっていく」ということです。
目標への執着心
目標志向と目標執着の違い
目標志向の人は、目標を成功に向けた道標として活用します。目標が重要であることを理解しつつも、個人の成長や充実感といった他の側面も同様に重要であると認識し、健康的なバランスを保っています。そのため、適応力に優れているのが特徴です。
一方で、目標執着とは、特定の目標を達成することに対して不健康なまでに固執し、他の側面をないがしろにすることを指します。多くの場合、それは短期的な視点に基づいた目標(例:昇進を手に入れる)に由来し、その結果、自分自身の健康、人間関係、倫理観などに与える影響を無視してしまいます。このような状況では、ストレスや燃え尽き症候群が避けられず、目先の満足感を優先するあまり、長期的な持続可能性や全体的な成長が損なわれるのです。
夢が実現する可能性があるから人生は面白いのです。
パウロ・コエーリョ
目標達成への執着をやめる方法
一歩引いて考える
人生でより高みを目指すためには、成功の重要性とそれに執着しすぎるリスクとのバランスを取ることが欠かせません。そのためには、時には一歩引いて、大局を見渡す姿勢が必要です。
やるべきタスクを次々とこなすことは目標達成への近道に思えるかもしれませんが、目先の作業を優先するあまり、核心となる優先事項や価値観を軽視しないよう注意が必要です。
マーシャル・ゴールドスミス博士の著書には、次のような実験例が紹介されています。
神学を学ぶ学生たちが『良きサマリア人』について講義をするという課題を与えられました。講義会場に急いで向かう途中、学生たちは実験者から『遅れている』と告げられます。
その途中、廊下で咳をして苦しんでいるボロボロの男性に遭遇しました(実際には俳優が演じていました)。驚くべきことに、学生の90%がこの男性を無視し、講義に向かうことを優先したのです。
この学生たちは、親切や思いやりについて熱心に語ろうとしていたにもかかわらず、目の前に現れた実践の機会ではその価値観を体現できませんでした。
つまり、目先の目標に執着しすぎると、自分の信念に沿った意味のある行動を見落としてしまうことがあるのです。
柔軟なタイムフレームを設定する
目標を設定し、それに向かって努力する際には、短期的な視点と長期的な視点のバランスを取ることが重要です。状況は常に変化するため、一時的に緊急かつ重要に思えたことが、時間の経過とともに優先順位を下げる場合もあれば、新たな課題が浮上することもあります。
例:
ある起業家が新商品を発売したとします。当初の目標は、注目を集めて急速な売り上げの成長を達成することです。しかし、市場環境や顧客のフィードバック、競争状況の変化を受け、コミュニケーション戦略の見直しや製品の改良、さらには市場の需要に基づいた目標の調整が必要であることを認識するようになります。
焦らない
物事が期待通りに進まない場合は、なぜそのような結果になったのかを冷静に振り返り、代替案を考えることが必要です。問題解決のために十分な時間とリソースを確保することで、成功の可能性を高めることができます。
他人に助けを求める
信頼できるコーチやメンター、または親しい友人に目標や課題を共有することは、ストレスを軽減するだけでなく、新しい視点を得るための素晴らしい方法です。第三者の助けを借りることで、自分では気づきにくい盲点を発見しやすくなります。
例えば、起業したばかりの経営者は、同様の課題を乗り越えた経験のある成功したビジネスリーダーにフィードバックを求めると良いでしょう。彼らの洞察やアドバイスを得ることで、よくある落とし穴を避け、自信を持って重要な意思決定を下すことができるようになるでしょう。
まとめ
目標達成は重要ですが、それに固執しすぎると、柔軟性や変化への対応力を失い、長期的な成長の機会を逃してしまう可能性があります。本当に大切なのは、目標達成「だけ」に焦点を当てるのではなく、目標達成を通じてどのような経験を得て、どのように成長していくかというプロセスを重視することです。
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