フィードフォワード|フィードバックよりも優れた選択

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フィードバックの「受け取り方」や「伝え方」は、長い間、成功のために欠かせない要素とされてきました。特に組織やチーム内のコミュニケーションにおいては、上司から部下への「トップダウン型フィードバック」が一般的でした。

しかし、近年では「360度評価」といった多角的な評価手法の普及により、部下から上司への「ボトムアップ型フィードバック」も注目を集めています。

とはいえ、トップダウンにせよボトムアップにせよ、従来のフィードバックには共通した限界があります。それは「過去」に焦点を当てすぎるあまり、「未来の可能性」に目を向けにくくなるという点です。こうした背景から生まれたのが、未来志向の新しいコミュニケーションの形「フィードフォワード」です。

主なポイント

  • 従来のフィードバックは過去の出来事にフォーカスするため、受け手が防御的になりやすく、批判やネガティブな感情につながりがちです。一方、フィードフォワードは未来の成長に目を向け、解決策や改善のためのヒントを提供します。
  • 客観性、前向きさ、効率性といった特長を持つフィードフォワードは、フィードバックよりも効果的な手段といえます。
  • 効果的なフィードフォワードを行うには、過去には触れずに未来の改善点に集中し、評価を挟まず客観的に耳を傾け、相手の努力や貢献を感謝の気持ちで受け止めることが大切です。

フィードフォワードとは?

「フィードフォワード(Feedforward)」という概念を提唱したのは、エグゼクティブ・コーチとして世界的に知られるマーシャル・ゴールドスミス博士です。

従来のフィードバックでは、上司が部下の過去の成果や問題点を評価するという形が一般的でした。現状に対する「良い・悪い」の判断を通じて、改善点を伝えるスタイルです。

これに対してフィードフォワードは、「評価」ではなく「提案」に重きを置きます。つまり、過去を振り返るのではなく、未来に向けた行動や改善に焦点を当てるのです。

たとえば、顧客対応のミスを指摘するフィードバックではなく、次に同じような場面に直面したときの適切な対応方法を伝えるのがフィードフォワードです。

  • フィードバックの例:
    「さっきのクレーム対応、対応が雑でお客様に失礼だったよ。」
  • フィードフォワードの例:
    「次にクレーム対応するときは、お客様の気持ちをしっかり受け止めて、落ち着いて丁寧に解決策を伝えられるようにしてみよう。その方が信頼関係も築けるし、サービスの質も高まると思うよ。どうかな?」

このように、フィードフォワードは相手を責めることなく、**「これからどうすればよいか」**を共に考える建設的なアプローチです。

フィードフォワード

フィードバックが抱える課題と、フィードフォワードとの違い

成績としてのフィードバックは、成長を阻む最大の足かせだ。点数は変えられず、学び直しもできず、数字や記号からは未来へのヒントが見えてこない。

ジョー・ハーシュ

従来のフィードバックは、過去の出来事に強く依存しています。そのため、以下のような3つの大きな課題が指摘されています。

  • 緊張や防衛反応を引き起こす

フィードバックの内容が、自分ではコントロールできない事柄や変えようのない過去に関するものであった場合、脳内ではストレスホルモン「コルチゾール」が分泌されます。これにより「脅威」として認識され、不安や緊張が高まり、防御的な態度をとるようになります。

ハーシュ氏が指摘するように、そのような状態では判断力や論理的思考といった重要な認知機能が一時的に鈍くなり、冷静な行動が取りにくくなってしまいます。

  • 批判に偏りがち

従来のフィードバックは、過去のパフォーマンスを評価することに焦点を当てているため、将来的な成長の可能性を見逃しやすくなります。共通の基準に基づいて一律に評価し、個々の違いや背景を考慮しないまま伝えられると、相手の成長を支えるどころか、その目的から逸れてしまうこともあります。

  • ネガティブな思考や行動を強化してしまう

自分の力ではどうにもならないミスや課題を指摘されると、人は無力感を抱きがちです。「どうせまた同じことが起こる」「自分は成長できない」といった思考に陥り、前向きな努力を放棄してしまう場合もあります。

実際、フィードバックは効果的とされながらも、その多くが期待された成果を上げられていないことが調査で明らかになっています。たとえば、米調査会社ギャラップの調べによると、「上司からのフィードバックが生産性向上に役立っている」と感じている社員はわずか**26%**にとどまっています。

フィードフォワードとフィードバック

フィードフォワードとフィードバック

ソース:Cult of Pedagogy

マーシャル・ゴールドスミスによる「フィードフォワード」5ステップ・モデル

マーシャル・ゴールドスミス博士は、これまでに3万人以上のリーダーたちに、フィードフォワードの実践ワークを通じた体験型トレーニングを行ってきました。

このワークでは、参加者が以下の2つの役割を交互に担います:

他者に対して建設的な提案(フィードフォワード)を行い、できる限りのサポートを提供する役割

自分の成長に関する他者の意見を傾聴し、多くの学びを得ようとする役割

このエクササイズは1回につき10〜15分程度で、参加者は平均6〜7回ほど1対1の対話を繰り返します。実施にあたっては、以下の5つのステップを踏む必要があります:

ステップ①:
自分の人生をより良くするために改善したい、もしくは新たに身につけたい具体的な行動を一つ選ぶ
(例:もっと人の話に耳を傾けられるようになりたい)

ステップ②:
無作為に選んだ相手と1対1でその行動について話す

ステップ③:
その行動について、未来志向の改善案を2つフィードフォワードとして提案してもらう
(※過去の行動に対するコメントは禁止。話すのは未来の改善点だけ)

ステップ④:
相手の提案をよく聞き、一切コメントをせずにメモを取る
(肯定も否定もせず、ただ受け止める)

ステップ⑤:
提案してくれた相手に感謝の気持ちを伝える

上記の5ステップが終わったら、今度は役割を交代し、相手の改善したい行動を聞き出して、2つの提案を伝えます。相手から感謝の言葉をもらったら、それを受け取り、次の相手に移ります。1人あたりのやり取りは約2分程度で進みます。

このプロセスを、制限時間まで何度も繰り返していきます。

ワークの最後には、「この体験をひと言で表すと?」という問いに対して、自分の気持ちを表す単語を1つ選びます。多くの参加者は「素晴らしい」「やる気が出た」「有意義だった」などのポジティブな言葉でこの体験を振り返るそうです。

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フィードフォワードを試すべき10の理由

マーシャル・ゴールドスミス博士は、フィードフォワードが従来のフィードバックよりも優れている理由として、次のような点を挙げています。

  1. 未来志向である

過去は変えることができません。もちろん、過去から学ぶことは重要ですが、そこに執着しすぎても前進にはつながりません。フィードフォワードは、そうした過去から意識を切り離し、「これからどうするか」という未来に焦点を当てる手法です。

たとえば、スポーツのトレーニング現場では、この未来志向の考え方が広く応用されています。レーサーは常に「壁」ではなく「進む先」を見るように指導され、バスケットボール選手はボールの軌道をイメージし、理想的なシュートを思い描くよう促されます。

問題よりも「可能性」を考えさせることで、人は前向きな気持ちになり、自信と成功への準備が整うのです。

  1. 成長に焦点を当てている

フィードフォワードの目的は、相手の成長を支援することであり、過ちを指摘することではありません。そのため、相手を「正しい方向」へ導くのに効果的です。

従来のフィードバックは、ミスをあまりに強調するあまり、相手の防御反応を引き起こし、結果としてお互いに不快な感情が残ることがあります。たとえ建設的な意図であっても、ネガティブな印象が勝ってしまえば逆効果です。

フィードフォワードの素晴らしい点は、互いに助け合うことに集中でき、評価やジャッジが一切ないところだ。

マーシャル・ゴールドスミス

  1. ハイパフォーマーとの相性が良い

成功している人は、自分の価値観や目標に強い信念を持っているため、それに合致するアドバイスであれば素直に受け入れやすい傾向があります。フィードフォワードは、その人の未来を応援する形で伝えるため、そうした人たちとの相性が非常に良いのです。

人は誰しも、自分のアイデンティティに合った意見には耳を傾けやすく、逆に矛盾するものは無意識に排除してしまいがちです。だからこそ、未来を前提に話すフィードフォワードは、自己認識を損なうことなく意見交換ができる有効な方法といえます。

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  1. 誰にでも適用できる

フィードフォワードは、相手の過去や性格を深く理解していなくても行える点が大きな魅力です。従来のフィードバックとは異なり、「相手のことをよく知っている人」からでなくても効果的なアドバイスが得られるのです。

たとえば、「もっと人の話を聴けるようになりたい」と思ったとき、あなたをよく知らないリーダーであっても、自身の経験をもとに有益なヒントを与えてくれる可能性があります。

コーチングと同様、フィードフォワードには「相手より優れている必要」はありません。立場や関係性に関わらず、誰からでも学びの機会が得られるのです。

  1. より客観的である

理想的には、フィードバックも成果や行動に基づいて行うべきですが、現実にはそうならないことも多く、つい主観的なコメントが含まれてしまいがちです。とくに、成功経験の多い人ほど、自分の成果とアイデンティティが結びついているため、主観的なフィードバックに対して強い抵抗を示すことがあります。

一方、フィードフォワードは「未来」の話に限定されているため、過去の評価や感情から切り離された、純粋に建設的なコミュニケーションが可能になります。その結果、相手に対して批判的に受け取られるリスクも最小限に抑えられるのです。

フィードフォワード

  1. 変化の可能性を強調できる

フィードフォワードの大きな魅力の一つは、「過去の失敗を掘り返す」のではなく、「前向きな変化の可能性」に焦点を当てる点です。未来志向の姿勢は、人が自分の可能性に気づき、より良くなろうとする意欲を引き出す鍵となります。

一方で、ネガティブなフィードバックは、「自分はこの程度の人間だ」といった悲観的な思考に陥りやすくなります。フィードフォワードは、「誰しもがポジティブに変化できる」という前提のもとに成り立っているのです。

  1. ポジティブな気持ちを引き出せる

たとえば、あなたが取締役会の前で行ったプレゼンがあまり良い評価を得られなかったとしましょう。このとき、上司が「何がダメだったのか」を指摘するのではなく、「次のプレゼンでは構成をどう工夫すると良いか」をアドバイスしてくれたとしたら、どう感じるでしょうか?

たとえ課題があったとしても、前向きな言葉で語られることで、そのアドバイスを素直に受け入れやすくなり、改善に向けたモチベーションも自然と湧いてくるのです。

  1. より効率的に進められる

たとえば会議で次のように伝えたとします。
「これから話すのは将来に向けた4つの提案です。皆さんはこの中から“良いな”と思った2つを選んで、前向きに考えてみてください。他の案は無理に検討しなくて大丈夫です。」

こうすることで、アイデアの取捨選択にかかる時間が省かれ、議論の雰囲気もポジティブになります。
フィードフォワードを実践すれば、未来に目を向けつつ、時間や感情の消耗を減らし、建設的なアイデア交換が促進されるのです。

  1. チームビルディングに役立つ

フィードフォワードは、相手を“評価する立場”ではなく、“ともに考える仲間”というスタンスを取ります。そのため、相手も心を開きやすくなり、率直で協力的なコミュニケーションが生まれやすくなります。こうした姿勢が、信頼と調和のあるチームづくりにつながります。

  1. 傾聴力が育つ

フィードフォワードを実践することで、私たちは「反応」より「受け止めること」に意識が向くようになります。相手の話を聞きながら“どう返そうか”と考えるのではなく、まずはしっかり受け止めることに集中できるようになるのです。

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フィードフォワードのメリット

フィードフォワードを伝える・受け取るときのポイント

  • 過去を掘り返さない
    フィードフォワードの本質は「未来の成功を描く」ことにあります。過去の失敗を反省するのではなく、「どうすればもっと良くなるか」に目を向けましょう。
  • 客観的に聞く
    双方とも、防御的にならずにアドバイスを受け入れる姿勢を大切にしましょう。すぐに反論したり評価したりせず、まずはフラットな気持ちで耳を傾けることが重要です。
  • アイデアを批判・評価しない
    フィードフォワードでは、どんな提案も一旦は「価値ある意見」として受け取る姿勢が求められます。そのアイデアを最終的に使うかどうかは別として、判断せずに聞くことが大切です。
  • 意見には必ず感謝を伝える
    誰かがあなたのために意見をくれたとき、それは“贈り物”のようなものです。たとえ内容がピンとこなかったとしても、「ありがとう」と伝えましょう。受け取って終わりで構いません。使うかどうかは自由ですが、「くれたこと」に敬意を示すのがフィードフォワードの基本姿勢です。

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まとめ

人間関係が複雑化する現代において、私たちに必要なのは「過去の反省」ではなく、「未来志向のコミュニケーション」です。そのためには、従来のフィードバックから一歩踏み出し、フィードフォワードという考え方を日常に取り入れていくことが求められます。

目の前の短所ではなく、これからの可能性に目を向ける——その姿勢こそが、個人にも組織にも、より健全な成長をもたらしてくれるのです。

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